『事業用定期借地権』撤退時のアスファルト・基礎杭撤去費用トラブル
岡田誠一郎は、国道沿いの約六百平方メートルの土地を、二十年前から飲食チェーンの運営会社に貸していた。契約は事業用定期借地権で、公正証書によって結ばれている。期間は二十年で、満了すれば更新はなく、借地人は建物を取り壊して更地にして返還する約束だった。店舗が撤退すると聞いたとき、誠一郎は、次の借り手を探す準備を始めた。幹線道路沿いの好立地で、引き合いも期待できた。
契約満了の少し前、運営会社の担当者から連絡があった。「建物の解体が終わりました。返還前の確認に立ち会ってください」。誠一郎が現地を訪れると、更地にはなっていたが、駐車場だった部分には、アスファルトの舗装が一面に残っていた。さらに、解体業者が掘り返した跡の脇には、コンクリートの塊や、杭の頭がのぞいていた。
誠一郎は、運営会社に、地中の基礎杭とアスファルトの撤去を求めた。しかし、担当者の返事は意外なものだった。「契約書には、建物を収去して更地にするとあります。地中の杭や、舗装まで撤去する義務があるとは読めません。撤去には数百万円かかるので、そこまでは負担できません」。誠一郎は、頭に血が上った。長年きちんと地代を受け取ってきた相手だけに、裏切られた思いも強かった。杭が残ったままでは、次の借り手に貸すことも、売ることもできないのだ。
誠一郎は弁護士に相談した。弁護士は、まず契約書の条文を丁寧に読んだ。「借地人は、期間の満了時に、建物その他の工作物を収去し、土地を更地にして返還する」。弁護士は説明した。「基礎杭も、アスファルト舗装も、借地人が設置した工作物です。契約書の文言で『更地』とされている以上、地中の杭や舗装も、原則として借地人が撤去する範囲に含まれると解釈する余地は大きいでしょう。ただし、条文の書き方次第で、争いになることはあります」。
弁護士は、さらに証拠を集めるよう勧めた。建築当時の竣工図や、杭の施工記録、解体工事の見積書と写真。それらをもとに、地中に何がどの深さまで残っているかを調べた。調査の結果、杭は約五十本、アスファルトも広い範囲に及んでいることが分かった。誠一郎は、感情的な言い方は避け、これらの資料を添えて、運営会社に、書面で撤去を求めた。
運営会社の担当者も、資料を見て態度を変えた。契約書の文言と、自社が設置した杭の記録がはっきり残っている以上、反論は難しい。話し合いの結果、基礎杭とアスファルトは、運営会社の負担で撤去することになった。一方で、地盤改良が必要かどうかは、次の用途が決まってから判断することにして、その費用は別途協議と定めた。工事の工程表と、完了の期限も決めた。返還が遅れた期間については、地代相当額を支払ってもらうことで合意した。
撤去工事の完了後、誠一郎は現地で立会い確認を行い、写真と図面で、杭と舗装が残っていないことを確かめた。引渡しの確認書にも署名してもらった。数か月遅れたものの、土地は無事に更地で戻り、近隣の事業者からも問い合わせが入り、次の借り手との交渉も始められた。
誠一郎は、今回の件で、契約書の書き方の大切さと、証拠を残しておくことの大切さを痛感した。次に貸すときは、原状回復の範囲を、地中の基礎や杭、舗装、配管などまで具体的に書き、費用の負担者と、引渡しの確認方法も明記しようと決めている。更地返還は、契約の最後の場面で、地主と借地人の考えの違いが表に出やすいのだと、誠一郎は思っている。
学びのボックス
| 事業用定期借地権とは | 専ら事業の用に供する建物を所有する目的で設定する定期借地権。公正証書での契約が必要で、期間満了時に更新はなく、更地での返還が原則。 |
| 原状回復の範囲 | 契約書の「更地にして返還する」という文言が基準になる。借地人が設置した基礎杭やアスファルト舗装などの工作物は、原則として撤去の対象と考えられる。 |
| 契約書の解釈のポイント | 条文が「建物の収去」だけか、「その他の工作物」「地中埋設物」まで含むかで争いになりやすい。文言を丁寧に確認する。 |
| 証拠の集め方 | 竣工図・杭の施工記録・解体工事の見積書や写真を集め、地中に何がどこまで残っているかを資料で示す。 |
| 次の契約への備え | 原状回復の範囲(基礎・杭・舗装・配管など)と費用負担、引渡しの確認方法、遅延時の地代相当額を契約書に具体的に定めておく。 |




